プロ野球が開幕する。開幕戦のおきまりイベントといえば始球式ということになる。今年も名士が、タレントがマウンドに上がって愚にもつかない演技を見せてくれるのだろう。「こんなモノ、必要なのかね」と嫌みを言うのが常なのだが、そうは思わない人も多いのだろう。あの手この手と始球式は花盛りである。

始球式といえば、昨年の日本シリーズ、巨人対ダイエー戦を思い出した。第1戦が女子マラソンの高橋尚子、2戦目が柔道の田村亮子だった。いずれもシドニー五輪の勝者である。以下の話はこの始球式をながめていたフリーランスの記者から聞いた。

「あの始球式の時、グラウンド上にいた巨人選手で、一人だけ脱帽していた男がいたんですよ。もちろん、捕手は除きますよ」

さて、誰だろう。テレビ観戦の人間にはわからない。現場記者も「?」、試合開始を間近に控え始球式など満足に見ている暇などなかったのだろう。

「見てませんでしたか、やっぱり」

と、高らかに笑われて悔しい思いをしたが、正解は、清原だそうだ。なぜ、彼だけが…。

「あとで取材したんですよ。何で脱帽なのか。あっけない言葉でした.『だってそういうもんじゃろ』です。でも、3戦目の福岡ドームは"モーニング娘。"でしたが、彼は脱帽する気はなかったようですよ」。なるほど3戦目は巨人がビジター・チームだから、清原が始球式の時グラウンドにはいない。ベンチ内で待機である。脱帽の機会はないが、多分帽子は脱がなかったろう。

おそらく「強い」ものに対する、清原の畏怖(いふ)だろう。高橋、田村。自分にないもの、恐るべき運動能力を持ったものを見た瞬間、彼の本能は敬意を、そして闘争心を発露するのだろう。少なくとも私は、清原に「本能」を感じる。本性だけで野球をやっている。本来、スポーツとはそういうものなのだ。

「そんな選手も少なくなったな」とぼやきながら、今年もテレビ観戦のシーズンが始まる。