何とも場違いな、と言うなかれ。あるところで講演会の講師を務めることになった。「今年のプロ野球」と題したものの、なにせ初体験。果たして思いの丈(たけ)が通じたものか自信がない。なんとか45分間をしのぎ、余った時間は質疑応答となった。「そろそろ終いに」と腰を浮かせかけた瞬間、最後の質問が飛んできた。

「スポーツ新聞もいろいろありますが、日刊スポーツの目指す紙面を教えてください」

なにやら業界風の、違和感のある問いかけに思わず質問者の顔を探した。どこかで会ったような、しかし思い出せない。

「藤城です。憶えていますか?」

講演終了後、その本人にあいさつされた。そう、かつて巨人の主力投手だった藤城和明氏だった。私が駆け出しの頃、スター投手でよく取材をかけたものだった。巨人から阪急(現オリックス)に移籍、自慢のノドで芸能界でも活躍したからご記憶にあるかも知れない。当然、近況を尋ねることになった。「評論家や、講演で食っています。たまたま、あなたの講演のチラシを見たんで、参考になるかとやってきたんです」。不景気の折、話は弾まない。「とにかく頑張るしかないのです。この不況ですから」。しかし、野球の仕事にありつける藤城氏はまだ恵まれた人間だろう。プロ・アマの詰まらぬ垣根が就職難に拍車をかけている。

最近、デスクに座っていると球界OBから電話がかかってくる。評論家としての就職を求めて、である。「何でもやりますから。仕事はありませんか」。私より年上で、球歴も申し分ない。しかし、仕事はない。電話の向こうでは、室内で飼っているのだろう、犬の鳴き声が受話器越しに漏れてくる。

「申し訳ありません。今は新たに評論家を雇う予定はありません」

そう答えざるを得なかった。電話の向こうで「キャン」という犬の叫び声が聞こえた。